いっちゃん
久しぶりに大学の友達と飲んで、午前様で帰る途中。そういやこの新大久保駅では、1月に事故(注1)があったんだっけ。あれは大変な悲劇だった。何しろ全く見ず知らずの通り掛かりの2人が、自分の命を犠牲にしてまで酔っ払いを助け出そうと飛び込んだんだから。あの2人は何を思ってあんなことをしたんだろう?何か自分の信条の中にある神々しいものが、2人をああ走らせたんだろうか。
……おっと、考え事してる場合じゃない!東京駅からの終電にぎりぎりになってしまった。隣りの新宿で中央線の東京行きに乗り換え、さーて、何とか間に合うだろう。……ん?何か横山ノック似の初老のハゲオヤジと若い数人のジベタリアン連中が言い争ってる。どっちも酔っ払って顔が真っ赤なのだ。
「コラァ〜!ドアんとこにしゃがみ込んで、ダメっじゃないかぁ〜!周りに迷惑なのが分からんのか?」
「てめえ、自分が酔っ払ってるくせして、俺たちに説教たれる気かよ。うるっせんだこのクソジジイ。」
あれ、誰かと思ったら、「日本ダメ教師の会」会長の池間仙次郎先生じゃないですか。ちょっと先生、お気持ちはよく分かりますがね、もう少し冷静になって下さいよ。
ふう、先生は僕に気付いて何とかおとなしくなった。
「ワァカッタヨ、どけゃーいーんだろ、どけゃー。二度と俺たちに近づくんじゃねぇ。」
そう捨てゼリフを残して、そのジベタリアン連中は隣りの車両へ立ち去っていった。
「ははは、こんなとこをいっちゃんに見られてしまったか。こりゃかなわんな。(^^;)」
先生、ああいうのに下手に噛み付くと危ないですよ。
「そうだな。まあ実を言うと、俺はあそこで厳しくテルミーガツンして、あの馬鹿者連中を体張って正してやろうと考えてたんでな。俺はこれでも中学の教頭だからな、しかも酒飲んでて、ついその血が騒いでしもた。」
もう、危なっかしいんだから。相手が刃物持ってたらどうすんですか?
「あの栃木県の黒磯の事件(注2)みたいにか?ああやって生徒の教育のために体張って死ぬなんて、教師冥利に尽きる!ってね、俺、つい考えちゃうんだな。君は反対するだろうけど。」
そりゃ反対ですよ。相手に罪を背負わせたら全然教育的じゃないじゃないですか。……ただ、お気持ちはよく分かります。とにかく教師としての務めを熱心に全うしたいんですね。
「いかんいかん。つい考えてしまうんだ。この命21世紀を担う青少年諸君の教育のためなら幾らだってくれてやらあってんだ(注3)、と。」