いっちゃん
筆者が卒業した、千葉県立千葉東高等学校は、筆者が2年の時に創立50周年を迎えた。その当時の校長T先生は、実に風変わりだった。もともとユーモアのセンスがあり、生徒たちには結構人気があった。担当は数学だったが、文人タイプのキャラクターを持ち、変わった信条を持っていた。
在職時代、T校長は非常に夢が多かった。例えば野球部が甲子園に出場する(注16)、とかいうどこの高校でも当たり前のものが大抵の校長先生にはあるが、T校長の夢はそれを遥かに超えていた。何と、
というとんでもない夢だった。
それで、創立50周年記念行事の一つとして、講演会が催された。講師は、はるばるアメリカはMIT教授のノーベル賞受賞者、利根川進博士であった。利根川博士もさぞかしお忙しいであろう筈なのに、その博士をT校長は招いてしまったのである。普通並大抵の人がノーベル賞受賞者を招くことはかなり難しい。それをやってのけてしまったとは、T校長の大変な気迫が感じられる。勿論、目的は利根川博士にあやかることである。
また当時T校長は61歳、翌年の春に定年退職が決まっていた。そのT校長は、もう1つ大変な夢を持っていた。何と、
というのである。もし出席するとすれば、T校長は111歳!!!あの有名なきんさん・ぎんさん姉妹を超えてしまう。そこまで長生き出来るのか?
それには、T校長の定年後の生活が関わっていた。元々T校長の家は住職なので別に不思議はないのだが、定年後得度して夫人とともに福井県の越前永平寺に入り、僧侶になるのだった。それで、翌年の春の離任式には坊主頭で出席した。そして挨拶にこう言った。
なるほど、と生徒たちはうなずいたのだが、どっと笑い声が起きた。真面目なのかふざけて言っているのか分からないのだが、とにかくとんでもない夢である。
全く、筆者が高校2年の時には、こういうとんでもない校長先生がいたのである。それこそ「雲をつかむような夢」とでもいえようか。確かに千葉東高校は千葉県有数の進学校であるが、それでもノーベル賞はあまりに大きい。これにはどの生徒も仰天してしまった。
夢を大きく持つ人は若さを長い間保ち、また長生きできる、といわれているが、果たしてT校長の場合は可能だろうか?それでも、T校長はこうすることで、生徒たちに夢を持つことの大切さを精一杯教えてくれた。そういう意味では大変偉大な教師であった。