飾りじゃないのよマナーは

いっちゃん

(注意)ここに出てくる話はあくまでフィクションです。

ふぁ〜あ、なんか昼休みというのは、食べたせいかいつも眠くなってくるんだな。ここは会社、勤務時間中に居眠りというのはまずいから、昼休みの残り少ない時間のうちに寝ておこっと。(-_-)Zzz...

「おい、いっちゃん、ちょっと話があるんだけど。」

なんだよ、せっかく人が気持ちよく寝てるところなのに……はぁ?!もう1時10分!あ、すいません、すいません。あ、部長、えーと、ご用でしょうか?
「あのさー、人事部長の田中さんから、ビジネスマナー研修の話でメールが来てると思うんだけど。ちょっと開いてみてくれる?」
ビジネスマナー研修?僕はビジネスマナーがなってないから受講しろって?え、違う?……えーと、このメールでしょうか?ふむふむ、新入社員のほかにも数十名の社員を対象としたビジネスマナー研修を実施するのだが、その講師にふさわしい人がほかにいないので、是非とも引き受けて頂きたい、と。
「それがさー、君にとっても素晴らしい話なんだよ。社長までも僕にお願いしてきて、もしやってくれたら特別手当10万くれるといってるんだよ。10万だぞ。」
え!10万!やりますやります!……それにしても何か裏があるのかな?
というわけで筆者は人事部に行った。どうも、田中さん、ビジネスマナー研修の講師を引き受けることに致しました。
「えーとね、これが指導要領、これが配布資料、これがOHP、それと、これが要注意受講者の名簿です。今回の研修はあまりに手に負えないってんで、元々の担当者が仮病なのか休んでしまったんですよ。それでお願いしたわけです。それにね、普段我々がやってるのとは一味も二味も違う研修にしたいと思いまして。期待しております。」
分かりました。……要注意人物?ゲッ、こんなのがいるの?!(注1)

氏名 フリガナ 所属 注記
野村 毛知代 ノムラ ケチヨ 経理部担当課長 通称ケッチー。元経理部長だが個人的な税務申告漏れで降格された。部下をビンタして注意処分を受けたこと多数あり。ハー○ード大学卒というようだが。
逗琉泉 元弥 ズルミ モトヤ 新入社員 ドタキャン、狂言などの性癖あり。
小暮 秀衛門 コグレ ヒデエモン 新入社員 自称10万27歳。自分を「閣下」と呼ばせ、悪魔のような顔で高慢に振舞う。
志村 きけん シムラ キケン ネット事業部
企画部広報課長
時々「ド○フターズ」ばりの俗悪ギャグをする。「だいじょぶだ」「おこっちゃやーよ」が口癖。
常時 微笑 ツネトキ エミ 新入社員(営業希望) ファストフード店でのバイトで仕込まれた笑顔だけは自慢。サービスというものを勘違いしている。
小槻 義彦 コツキ ヨシヒコ 研究開発本部第一研究室
マルチメディア研究部部長
言われたことを素直に飲み込めず、何でも科学的根拠を追求しなければ気がすまない石頭ド神経質オヤジ。W大学客員教授。理学博士。
暮津井 千夏 ボツイ チナツ 総務部庶務二課 社内でも有名な「ショムニのお局」。相手が上役だろうと関係なく歯に衣着せずズケズケ言う。キャバクラ勤務経験あり。

えー、皆さん、ビジネスマナー研修担当の市原です。おはようございます。

「いっちゃん、おっは〜!(^o^)/」

あちゃちゃ(>_<)……あのねー、ここは会社なんだから、「おっはー」はないでしょう?「おはようございます」ですよ。
えーと、出席を確認します。逗琉泉元弥さんだけがいないですね。彼について誰か聞いてますか?
「元弥のやつ、また遅刻かドタキャンですよ。出来ちゃった結婚なんで、また奥さんの白亜紀さんがつわりだとか何とか嘘つくんじゃないかと思いますが。あいつ、狂言師だから。」
そういうのは社員としていけませんね。……よくそういうのが採用面接で通ったものだ。

(1) 身だしなみ
まずは身だしなみ。ここはビジネスの場ですから、お互い気持ちよく仕事ができるように気をつけましょう。髪の毛は整えてあるか、ネクタイは曲がっていないか、ズボンやスカートはしわが寄ってないか、あと極端に華美ではないか、朝家を出る前に必ず確かめましょう。とにかく見た目から相手を気持ちよくするのがビジネスマナーの第一歩ですよ。
……というと、そこの暮津井千夏さん、その胸元パックリ、超ミニのボディコンに網タイツは、ビジネスマナーとしては不合格ですよ。ここはキャバクラじゃないんだから。目のやり場に困るっていうか。
暮津井「あら、そう?あんた、お互い気持ちよくっていったわよね。だからこんな服装してんだよ。どーう?このGカップの胸の谷間、この長い脚、この美貌、見ていて気持ちよくならない?ウッフン。」
ああ、本当に気持ちよくなってきた。幸せだなぁ。(*^o^*)このまま膝枕に……イデデッ!(>_<)いきなりなにつねるんだよ!
暮津井「あんた相当なウブだね、童貞?ま、そんなブサイクじゃさぞ女が寄り付かないんだろうね。」
悪かったね!どーせこの二十ン年間カノジョいないよ、あんたに言われる筋合いはない。それより、その服装はあまりに職場にふさわしくないので、普段きちんと着てるものに着替えてきて下さい。……えーと、皆さん、ああいうのをまねしないで下さいね。……おお、随分早いな、なんだ、ちゃんと制服着てるじゃんか(注2)。暮津井さん、まだ何かあるんですか?
暮津井「ま、所詮、それっていわゆる万人受けするといわれる無難な服装にしろということだけなんだよね。相手に気配りしてるわけじゃない(注3)サラリーマンのネクタイはコギャルのルーズソックスと同じ、単に自分を型にはめて窮屈にしてるだけ。あたしはそういうのは嫌いなんだよ。……それよりあんた、そんなこといってるくせして、自分の身だしなみは全然なってないね。さっきからネクタイ曲がってるし、社会の窓が開いてるよ。」
(ワハハハハ……)あ、いかん!笑うなよ!……失礼しました。えーと、こーゆーのがいけないわけです。気をつけましょう。(^^;)
(2) 挨拶は自分のほうから明るくはきはきと
次は挨拶についてです。勿論さっきの皆さんの「おっはー」はふさわしくありません。ビジネスの場にふさわしい、きちんとした挨拶のしかたがあります。お辞儀の角度も時と場合によって違いますし、あとできるだけ自分のほうからすること、笑顔で明るく元気よくというのも大事です。
……その点では、常時さん、いつも笑顔ではきはきとしてて、いいですね。自分が出社したときの挨拶はどうすればいいでしょう?

常時おはようございまーす!(^o^)ニッカニカ

どう?そうやって明るく挨拶すると、気持ちいいでしょう。さすがはファストフード店でバイトしてたことはありますね。(注4)
あとは、時と場所に応じてきちんと使い分けることです。……よーし、一つ練習問題を出してやろう。研修のテキストに書いてないけど、例えば営業の取引先の担当者の親御さんが亡くなってそのお葬式に出るときは、どう挨拶すればいいのでしょうか?

常時この度は、ご愁傷様でしたー!(^o^)ニッカニカニッカニカ

あちゃちゃちゃー、ダメだこりゃ。君は相手への気配りってものがないのかい?単にマニュアルなぞってるだけじゃんか。
常時「だって、相手は本当に落ち込んでるんですよ。励ましてあげたいと思うんです。」
分かった、分かった、もう勝手にしなさい。
(3) 時は金なり
逗琉泉(ドタドタドタ……)「おっそ〜く〜な〜り〜ま〜し〜てぇ〜、も〜〜しわけ〜、あぁ〜り〜ま〜せ〜ん〜で〜し〜たぁ〜!はぁ〜、くっさめ!」
おや、逗琉泉さん、45分の遅刻ですよ。社会人になると、学生のとき以上に時間厳守ですよ。遅刻して「除名処分」ということになるかもしれませんよ。まあ、遅れるのが分かっている場合には、きちんと連絡をして下さいね。
逗琉泉「いやぁ〜、あのぉ〜、そのー、身共だって〜それなりに〜、早く着くために、何でもやったんで〜ござる。ほかの〜客を〜突き飛ばしてまで、駆け込み乗車して。急げ〜急げ〜、急ぐぞ〜急ぐぞ〜、とね。ついでに〜電車の中から電話しようかと思ったけど、さすがにこれは公衆マナー違反なので。(注5)
ほかの人を突き飛ばして公衆マナー云々いえる分際かっちゅーの。それよりもっと普通の話し方をして下さい。くだらない狂言はいいから、早く席に着いて。
会社の中では、時間が経つとともに社員に給料が払われます。つまりその分人件費、コストがかかるわけです。この時間のことを工数といいまして、会社としてはこれをできるだけ高い割合で、利益につながる業務に使いたいわけです。そんなとき、待ち合わせの時間に遅れたりするのは、相手を待たせることで相手の時間を使う、つまりそれだけ工数を使ってしまうわけです。その辺よーく心得て下さい。
会社というのは時間がお金に換算される、「時は金なり」、世知辛い世界です。何しろエコノミックアニマルの集まりですからね。まあ新入社員の皆さんは、学生時代とは違う文化の世界にきたわけですから、カルチャーショックかもしれませんがそこんとこうまく適応して下さい。
……(ドタドタドタ……ドスン!)あれ?何か廊下で音がしたような。ありゃりゃ、出会い頭にぶつかっちゃって。
「これ馬鹿もの!君、廊下を走っちゃいかんと、あれ程言っただろが。」「すいません、時は金なりとばかりに、廊下を歩く時間が惜しくて。」
……あれがこの心得のいい実践例なわけです!?良い子の皆さんは、こういう悪い大人の真似をしてはいけませんよ。
(4) 敬語は尊敬・謙譲の意を表するもの
敬語の使い方も、ビジネスの場では非常に重要です。敬語は何といっても相手に尊敬の念を示すための重要な表現です。ここで使い方を間違えると相手に不快感を与えたり、「おたくの会社は何やってるんだ」ということにもなりますので、十分心得て下さい。
ご存知の通り、敬語には尊敬語謙譲語丁寧語というのがあります。何日か前に皆さんには敬語の使い方に関するテストをやって頂きましたが、丁寧語はいわゆる「です」「ます」体でわりとできているのに対して、尊敬語と謙譲語の使い方で多くの方が間違えていらっしゃったようですね。実に多かったのが、身内に敬称をつけてしまうのと、二重敬語です。(注6)尊敬語は相手を持ち上げるために、謙譲語は自分を一段へりくだり相対的に相手を高くするために使うわけですから、その辺を心得ておいて下さいね。
小暮「我輩はどうなのだ、どこもかしこも年下なのだ、恐らくこの世界で我輩より年上はどう考えてもいないだろう。」
ちょっと小暮さん、あなたは新入社員でしょう。会社ではどこへ行っても先輩だらけですよ。それこそ敬語を使わないといけないんですよ。そんな悪魔みたいな顔してそんなこと言うと、若造のくせに生意気だといわれますよ、小暮さん。
小暮閣下とお呼び。我輩のことを若造で生意気だと?なことはない。それはそっちのことだろが。我輩は10万27歳なのだ、恐竜も四大文明も源平合戦もフランス革命も見ている。邪馬台国がどこにあったかも知ってる。恐らく世界でこれ程長く生きている者はおらぬであろう。誰もが平身低頭してくるこの立場、この我輩が相手を持ち上げたり自分をへりくだったりしたところで、我輩のほうが相手よりはるかに高いところにいるという状況の何が変わるのだ。(注7)
ははっ、閣下様のおおっしゃりにならられるとおりでござりますれば、かくかくしかじか、閣下様のおぼしめしに、いや、おおぼしめにならられりろれるりら……アグッ!(>+<)
小暮「たわけが、舌噛みやがって。相手に敬語を使わなくても生意気と言われないようにするには、こうやって生意気と思われない立場に立てばよいのだ。思いっきり年をとるとか、思いっきり偉くなるとか。
……この人と話していると時間の無駄だ、さて話を元に戻しましょう。丁寧語の中でも、ビジネスの場ではよく否定的なことをいうのに、「〜ません」というととげとげしくなるので「〜かねます」という表現に改めることがあるのですが、例のテストでは随分と正解率が低かったようですね。これは結構忘れがちですが、しっかり覚えておいて…でもないか、いや、意味が分かりにくくもなりますので(注8)、使いたい人の好き好きで使って下さい、ということで。
(5) 公私混同を避けよ
この一連の研修が終わると、新入社員の皆さんはそれぞれの部署に配属されて、机、パソコン、電話、文房具、など会社の備品を何度も使うわけですが。(ジョロジョロジョロ……)何の音だ?えっと、その会社の備品を個人的な用事で使うのはいけません。あくまで会社のものは会社の業務だけのために使うということです。よく電話で業務と関係のない話をしたり、パソコンで業務と関係のないネットサーフィンをしたりする人がいますが、これはダメですよ。
逗琉泉(ピロピロピピピ…)「はい、あ、おふくろ、なんでそんなとこに勝手に入れるんだよ、またダブルブッキングじゃないか。もう余計なことしないでくれよ!」
ちょっと逗琉泉さん、そういうのもダメですよ、プライベートと業務ときちんとけじめをつけて、携帯の電源を切って下さい。
ジョロジョロ……)またこの音か、まさか雨漏りか?なわけないか、今日は晴れてるし。(ジョロジョロ……)「ふーっ」
「うわ、くせー!(>±<)誰だ?」
ちょっと後ろのほう、どうしました?うわ、ションベンくせ〜!(>±<)……ちょっと志村さん、何ですかそれは。尿瓶(しびん)じゃないですか。
志村おこっちゃやーよ。俺さ、新入社員にそれについて模範を示そうと、持ってきたんだ。トイレの便器だって会社の備品じゃんか。おまけに、会社の工数使ってトイレに行くんだろ?ま、こうしといて後で一丁目、イッチョメ、イッチョメ、ワーオ、の公衆便所で捨てりゃ、会社のトイレ使わなくて済むからダイジョーブダー!あいーん、俺って頭いいだろ?」
あのねー、これは会社の業務以前に犯罪行為ですよ(注9)。それに会社のトイレを使うのは原則として自由です。……それもそうだけど、こっちは2時間も行かずに我慢して講義してるんだぞ!
志村「よかったら貸してあげるよ。ホレ。」
ありがたい!行きたかったんだ……だけどいかん!犯罪になってしまう。どうしよう……ええと、これから5分の休憩です。……「ほい、あと頼むよ。」ちょ、ちょ、ちょっと志村さん、この尿瓶……くそー、逃げやがって!なんで僕がやらにゃいかんの?あー、トイレー、トイレー。(>±<;)
(6) 連絡・指示事項では必ずメモをとる
さて、お次は情報の伝達で必ずメモをとる習慣をつけましょう、ということです。まあこれは、連絡・指示事項を確実に受け取って確実に行動に反映させるために一番に重要なもので…
野村「何寝ぼけてデタラメ言ってるのよ、あんた、一番重要なのはメモをとることじゃないでしょっ!」
あの野村さん、まだ講義の最中ですので。
野村「だまらっしゃい、メモは全部私の頭の中にあるのよ!要するに確実に受け取って実行に移しさえすればそれでいいんでしょ。」
それはまー確かにそーだけど、えーと、人間の頭脳はある程度経つと記憶したものを忘れていくんです。大体こんな感じの忘却曲線で落っこちて。ところがメモをとった場合はこれがそのまま落っこちずに保たれるわけで。
小槻科学的根拠はあるのか?と聞きたいね。君の説明では全く片手落ちだから。前提条件が何もないんだよ。おいケッチー、例のアレ黒板に書いてやりな。」
野村さん、突然立ち上がって何ですか。
野村「ちょっとどきなさいよ、このブタ。これから私が講義してあげるから。ハイ皆さんアテンションプリーズ、ケッチーです。今から、連絡・指示事項を受け取ってからそれを行動に反映させるまでの流れを説明します。
連絡・指示を
メモしたか?
Y
メモ内容は
正しいか?
Y
メモを改変・
紛失したか?
N
メモを忘れずに
見ているか?
Y
メモの内容が
分かるか?
Y
連絡・指示を実行
できる状態か?
Y
連絡・指示を
無事に実行
↓N ↓N ↓Y ↓N ↓N ↑Y ↓N
連絡・指示を
覚えているか?
N
連絡・指示を
実行できず
メモをとるとらないは自由です。本当に大事なのは、連絡・指示事項を確実に受け取って確実に行動に反映させることです。メモをとっても、内容が間違っていたり、途中でなくしちゃったり、見るのを忘れたりしたら何にもなりませんからね。その点お忘れなく。」
……すごひ、ケッチー恐るべし(注10)……。ええと、メモをとるのはあくまで手段です。手段ととらえて下さい、たじたじたじ……でもないか、まあ、メモをとっているところを相手に見られると、相手は安心します、そういう効果あります……。あとね、メモをとった場合、特に上司からの指示など個人対個人の連絡の場合は、確認のためとったメモの内容を復唱するといいでしょう。あの、小槻さん、また何か?
小槻「あのね、メモとらせるぐらいなら、最初から紙でもメールでも使えばいいじゃないの。口頭で話すのはその補完として。せっかくこういう科学的根拠があるのにねー、ここの会社の人は非科学的だから、わざわざこーゆーまどろっこしいことするんだ。」
はいはい、何とでもおっしゃって下さい。……えーと、何を話そうとしたのか忘れちゃった。だからえーと、業務においては確実な記憶が本当に大事なんです、て話だったっけなー。……僕みたいにこうやってど忘れするのは、いけないんですよー。
(7) 電話は生易しく出んわ
さて、次は電話の応対のしかたです。大概は日常のプライベートな電話と同じですが、ビジネスの場ではプライベートな電話と若干違うところがあります。
  • 呼び出し音が鳴ったら原則として3回以内に出て、それに遅れた場合は「お待たせして恐縮です」などと詫びを入れる。
  • 受け取り側が最初に名乗り、それを受けて掛けた側も名乗るのは必須。「もしもし」はあまり言わない。(注11)
  • 受け取った側が名乗る場合、社内ならば部署名を、社外ならば社名を名乗る。
  • 会話内容はメモを取り、復唱して相手に確認する。
  • 自分が電話を受け取って、自分以外の人に掛かってきたときは、その人がその場にいなければ電話があったことをメモして伝えておく。また受け取った人として自分の名前を掛けてきた相手に伝えておく。
  • 自分から掛ける場合、相手に都合の良い時間を十分考慮する。
  • あくまで簡潔に。特に相手が携帯電話や公衆電話の場合は長引かせないように。
ビジネスの電話には、業務上重要な情報が含まれていることがあります。そのため、口頭での情報伝達以上にメモが重要なわけですが……小槻さんと野村さんは当分黙ってて下さいね……、あと復唱するのも重要です。
小槻「えー?復唱わざわざすんの?メモをガンガン書かせてまどろっこしく復唱させるぐらいなら、メールにすりゃいいのに。私の言っていること、科学的根拠から外れてないよな?」
だーかーらー、小槻さんは黙ってて下さいって言ったでしょうが!……じゃあ、早速ロールプレイをやってみましょう。違う会社という設定で、掛ける側は志村さん、受ける側は常時さん、お願いします。ハイ、志村さんが電話を掛けました。常時さんの電話が鳴りました、ピロピロピロ……。
常時「はい、ミツシバ電気でございます。」
志村「私、山川商事の志村でございます。お世話になっております。担当部長の山田様はいらっしゃいますでしょうか?」
常時「少々お待ちください。……恐れ入りますが只今山田は会議中で席を外しております。昼休みまで続くと思いますが。」
志村「そうですか、では、山田様に伝えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
常時「どうぞ。」
おお、二人ともいい線いってるな。なんだ、やれば出来るじゃんか。ホラ、常時さん、メモ。
志村「私どもの部署にいる者に、早ければ明日の午後あたりに御社に伺わせたいのですが、よろしいでしょうか?ということで。」
常時「私はよく分からないので、山田が戻ってきたらお返事差し上げられると思いますので。で、そのお見えになるお方は何とおっしゃるのでしょうか?」
志村「それがですねー、すごく長いんですよ。寿限無寿限無五劫の摺り切れ……」(注12)
常時「えーと、寿限無寿限無五劫の摺り切れ、でよろしいんでしょうか?」
お二人とも、それはいくら何でも。
志村「なあいっちゃん、俺はメモをとることがいかに大事か分かるように、格好の題材を提供してやってんだよ。これで続けさせてくれよ。……はい、そして海砂利水魚水行末雲来末風来末…」
(中略)
志村「…長久命の長助というものです。」
ホラ、常時さん、次は内容を復唱して。
常時「かしこまりました。……ではご用件を確認させて頂きます。御社の寿限無寿限無パイポパイポ…じゃなくて、寿限無寿限無五劫の摺り切れ…長久命の長助様が……何でしたっけ?」
これこれ、常時さん、名前しかメモしてなかったの?
志村「だから、弊社の寿限無寿限無五劫の摺り切れ…長久命の長助が、明日の午後あたりに御社に伺いたいのですが。」
常時「えーと、御社の寿限無寿限無五劫の摺り切れ…長久命の長助様が、明日の午後あたりに弊社にいらっしゃるということでよろしいでしょうか?」
「はい……あともう一つ、来週予定していた展示会で私が出るはずだったのですが、私には別の用事が入ってしまいまして、代わりに寿限無寿限無五劫の摺り切れ…長久命の長助が出ることになりますので、宜しくお願い致します。」
「えーと、来週の展示会に志村様の代わりに寿限無寿限無五劫の摺り切れ…長久命の長助様がお出になるということでしょうか。」
「はい、そうです。以上、宜しくお願い致します。」
…(後略)
ハイハイ、ご苦労様でした。……コノヤロ、研修をからかっとるのか?
小槻「だから言っただろ、メールにすりゃいいのにって。電話を使うのが的確かどうかを見極めるのもビジネスマナーのうちだと思うがな。」
(8) 報告・連絡・相談は業務の原動力
さて、この研修も終盤に入ってきましたが、やはりビジネスマナーの一番の目的はビジネス上のスムーズなコミュニケーションなわけです。そのコミュニケーションの最たるものとして、よく「ホウレンソウ」(告・絡・談)と称されるものがあります。
一般に業務というのは、上司の指示によって始まり、その業務をどこどこまでしましたよ、という報告で終わるものです。会社の業務は組織で行なわれるわけですから、もしこれがないと一人一人がバラバラになって組織として全然機能しなくなってしまいます。それもそうですが、お互いどんな状態であるかを知ることで、お互いが安心して気持ちよく仕事ができる、そんな意味ではこれは重要なことです。
逗琉泉「何でも筒抜けにしろってことですか?悪い話をそのまんま伝えて上司が気分悪くしたらまずいんじゃないですか?僕なら、自分に上司の怒りの火の粉が飛んでこない、つまり上司が気持ちよく仕事を続けられるように、何かうまい作り話をして切り抜けますよ。」
小槻「狂言師は黙ってろ。要は外部に提供するインタフェースをつくるってことだな。これは確かに科学的根拠がある。でもこれはマナーの範疇じゃないぞ。なんだかんだいって、社員は会社にとって使いやすい部品になれ、ただそーゆーことだろ?」
暮津井「何いってんだよ、このオヤジ。会社というのは人でもってんだよ。だから相手を気持ちよくさせるために実践しろって。」
小槻「フン、どーせ君の場合は、男をたぶらかす魂胆だろ?この行かず後家が。」
コレコレ、やめて下さいよ。まあ、インタフェースといえばインタフェースですが。
……えーと、それから、報告や連絡、相談のしかたも、的確にやらなければいけません。指示を受ける場合と同じように、5W1H(注13)を明らかにすること。それから、ただやればいいというのではなく、相手に確実に伝わることが重要です。具体的には、まあその職場のやり方に従って下さい。

要するにですね、ビジネスマナーというのは、ビジネスの場でコミュニケーションを円滑に進めるためのものです。毎日毎日会社で仕事をするにも、やっぱり気持ちがいいほうがいいですよね。そのためには、相手も気持ちよくさせてあげること、そのため一人一人が自分の行動をわきまえる、それがマナーなわけです。
暮津井「まあどーせ、私の仕事は社内の人相手ばかりだから、相手を気持ちよくさせるためなら結構何でもできる。いつもそれやってる筈なんだけど、なんで私には男運がないんだろ?」
野村「だからあんたには嫁のもらい手がいないのよ。それより何かほかの人にできない技能を身につけなさい。私なんかハー○ード大学でMBA取ったんだから。」
小槻「ケッチー、そのブルドッグみたいな顔だって、みんな不愉快になるよ。微笑ちゃん見てごらんなさいよ、お葬式のときでさえも相手を元気づけようとしてる姿勢、見習うべきじゃないか。」
逗琉泉「相手をいい気持ちにさせる化粧なら、僕がお教えしますよ。それから、あとは上司の逆鱗に触れないように、いつもいつも作り話を考えるということで。」
ンモ〜、これまで僕が説明してきたことは何だったの?


ふぅ、やれやれ、10万円の小遣い稼ぎでこんなに疲れるとは。……とはいっても、あの不良受講生たちからは改めて、ビジネスマナーとはどんなものか、幾つか教えられることがあった。
それとともに、筆者がビジネスマナーについて考えていることも含めると、以下のようになる。

(1) マナーはルールではない
世間ではよく、マナーとルールとをごっちゃにしていることがあるが、筆者の持論では、両者は以下のように全く違うものである。マナーとは、相手への真心から自主的に行なわれる行為によって、相手がその行動だけでなくその裏にある心遣いを想像して嬉しくなる、というところが肝なのである。
支配対象 行為のきっかけ 行為の判断 行為者への見返り 心理的効果
マナー 内面も含めた態度(注14) 本人の自主的な判断・相手への真心 ほぼ主観的 一般には期待しない されると嬉しい
ルール 表面的な行動 外からの強制による ほぼ客観的 違反すると罰せられる 別に何も感じない
例えば、「電車の中でお年寄りに席を譲る」という行為を考えると、現状ではルールもなければ譲ることに対する見返りも何もないので、お年寄りに真心がまっすぐに伝わり、席を譲られたお年寄りは嬉しい、これはマナーである。ここへもしも「席を譲ると運賃半額」「譲ることを拒否すると罰金5万円」などというルールをつくったとすると、単に席を譲るという表面的な行為にとどまって、悪ければ「譲れと言われてるから譲ってやってんだ」ということにもなり、お年寄りは嬉しくも何ともない。
それを考えると、マナー教育により行為についてああしろこうしろと指図すると、その指図を受けた人が指図を意識して行動する。そうでなくても、相手を気遣う気持ちと無関係にただ「○○することがマナーなのだ」と思って行動すると、その意識が暗黙のルールに変化してしまう。これではマナー意識を持ったためにマナーではなくなる、という皮肉なことになる。(まあ、受け取る側がその行為者のことをルールに全く縛られていないと思い込んでいれば、知らぬが仏でそれでいいのだが。)
とにかく、マナーとはその行動だけでなく裏にある精神もあるからこそマナーなのである。行動だけ飾って「仏作って魂入れず」ではダメであろう。
(2) マナーは自分本位でわきまえるものではない
世間でよく「社会人としてのマナー」「大人としての気配り」というセリフをきくことがある。これは特に企業で新入社員が周囲からよくいわれることである。
何を寝ぼけたこと言っているのだろうか。前に述べたようにマナーとは相手への真心が前提にある。で、そもそも相手に真心を尽くすというのは、自分が大人で精神的に成熟しているためできるということはあっても、自分が大人だから意識してするということではない。だから、マナーとは自分が○○だからわきまえるというものではないことはすぐに分かるだろう。
大体、そういうセリフの裏には、以下のような大人優越主義がはびこっているのかもしれない。
大人・社会人=思慮分別をわきまえた人
子供・学生=思慮分別の足りない人
それは大人を大人としての自意識に目覚めさせる効果があり、それが概ねいい結果を生んではいるが、 これだけを意識したのでは真心はどこにあるのだろう?マナーと称して実は自分の立場を守って飾るための点数稼ぎに利用し、周囲に礼儀の押し売りをしているだけということにならないだろうか?暑苦しいスーツ・ネクタイ然り、堅苦しく小難しい「かねます」語然り、押し売られてじれったい思いをする人の立場にもなってほしいものだ。

礼も過ぐれば無礼となる

更にいうと、企業はわざわざ莫大な工数を使って新入社員にビジネスマナー研修を実施し、その中でビジネス特有の文化に基づくものならまだしも、挨拶とか小学生でも分かることまで手取り足取り教えている。そこには、「わきまえないとうちの会社の社員として恥ずかしいからわきまえさせる」とか「学生とはマナーをわきまえられないものなのだ」という意識が垣間見えなくもない。
もっとも、自分の立場から行為の影響を意識しろ、というのなら分かる。普通の人が殴るならともかく、プロボクサーが殴ったら相手が死ぬかもしれない、だからプロボクサーである自分は殴ってはいけないのだ、というように。(たとえが悪くてすいませんm(__)m)
(3) ビジネスマナーは存在しない
こんなことをいうと、筆者がこれまで彼らに教えてきたことは完全に否定されてしまうのだ。でもこれは悲しいかな、ある意味当たっているのである。なぜか?
  1. 企業は営利団体であり、その社員は常にその会社に利益をもたらす行動をとることを要求され、その見返りとして賃金を受け取る。
  2. その結果、企業・社員のとる行為は全て利益のための戦略ととられる。
  3. 従って、企業・社員のすることにマナー(ビジネスマナー)は存在しない。
これはあまりに極論であるが。まあ、例えば同じお辞儀をするにも、普通の立場の社員が社内でするならマナーであるが、振り落とされまいと頑張っている出世競争中の人やリストラ予備軍、或はそれこそ自分の一挙手一投足が売上げに響く営業の人々の場合は、マナーではなく戦略になってしまうのだ。
そもそもマナーとは一種のボランティア行為なのだ。普通の一個人がいわゆるボランティア活動をすれば、これは本物のボランティアである。一方、企業がどこか自然災害や戦争被害の被災地に巨額の寄付をしたり、選挙間近の国会議員立候補者が駅前のゴミ拾いをしたりすれば、これは売名行為に当たりボランティアになりえない。それと同じく、企業である、または企業に雇われている人である限り、本当のマナーと100%言えるようなことは出来ないのだ。

巧言令色鮮(すくな)し仁

まあ、仕方がないのだ。民間企業とはそんなところなのだ。だからビジネスマナー研修と称して社員研修を実施しても、社員に具体的に教えられるのは「マナーに叶った行動」の指針だけであり、マナーそのものではない。本当にビジネスマナーを教えるということになると、「気持ちよくやっていこう」と意識させるところまで必要なのだが……そこまで教えている研修はどのぐらいあるのだろうか?

ともあれ、ビジネスの場に限らず、マナーとはあまりに曖昧模糊としたもので、その善し悪しの判断基準が全然明確になっていないのだ。それに、人間は精神的にどんどん楽なほうへ楽なほうへと流れていくものだから、マナーに叶うといわれる行動をとることがその自分にとってある程度楽な方向でないと、なかなかその行動に移ることができないものであり、いつもいつもマナーをわきまえろというのも無理な注文である。思うようにいかなければ、時にはクレーマーにからまれた東芝のように、ビジネスマナーの常識を逸する言動に出てしまうことだってある。
なんだかんだいって、人間はいつもマナーに基づく行動と自分の惰性による行動とを自分の気分次第で使い分けることで、何とか人間社会で平和にやっていっているようなのだ。


「やあ、いっちゃん、ご苦労さん。田中人事部長がえらく感謝しててね、それに君のお蔭でビジネスマナー研修もスムーズに実施できたと、社長もすごく喜んでおられたよ。」
部長、それ本当ですか?僕は結構いい加減に教えてしまって、あんなんで良かったのかなってちょっと心配だったんですが。問題のある受講生に散々場をかき回されてしまったけど。
「研修であった話はいろいろ聞いてるよ。でもその問題児の彼らが、実は一番ビジネスマナーのことをよく考えていたりするのかもしれないな。彼らはピントは大幅にずれてるけど、彼らなりに相手に気遣おうとしていることだけは確かだ。君にとっても幾らか勉強にはなったんじゃないのかな。」

何だかよく分からないが、筆者が講師を務めたビジネスマナー研修は何とか終わった。うーむ、部長からはお褒め頂いたけれども、受講生にはどんな印象だったんだろうか?お、メールがきてる、早速研修の模様がイントラページに掲載されたな。ふむふむ、研修の感想はいかに?
「自分のビジネスマナーについて自信がなかったが、もっとマナーのダメな人が講師を務めているかと思うと、まだまだ自分も捨てたものじゃないなと思い、自信がついた。」
「ビジネスというのは結局キツネとタヌキの化かし合い。いっちゃんにうまい相手の騙し方を教えてもらった。」
はにゃ?僕はそんな風に見られていたの?トホホ・・・(-_-:)

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