パラサイト・パラダイス!?

いっちゃん

(注意)このエッセーは約半分がフィクションです。花粉症の人はハクションです。(。_°)☆\(`_'#)

最近人生クリニックをやってます。おっと、電話だ。あ、もしもし市原人生クリニックですー。日本ダメ教師の会会長の池間仙次郎(いけま・せんじろう)先生ですか、いやー、ご無沙汰してます。えーと、患者さんでしょうか。
「俺の知り合いの須根加治郎(すね・かじろう)ってやつなんだけどよ、30歳の娘の細枝(ほそえ)さんのことで悩んでるらしいんだ。なんでも、こういうことらしいんだよ。赤とんぼの3番歌詞じゃないけどよ、

♪三十路〜で姉や〜は〜嫁に〜行かず〜、お里〜に頼り〜て〜パラサ〜イ〜ト〜。(注1)

診察してもらえんかな。いやね、この診察は実はいっちゃんにとってもひじょーにゴリヤクになるかもしれんのだ。どうだね、やってくれないかい?」
何がゴリヤクなんですか?あ、先生、切れちゃった。まあいいや、何かあるんだろうと信じて、須根さんの診察を引き受けることにしよう。

翌日、須根さんが当クリニックにやってきた。どうもはじめまして、須根さん。えーと、名刺を拝見致しますと、須根さんは高級肉輸出入の商社「ナイスミートユー」の社長さんで、お住まいは…田園調布ですか。いやー恐れ入ります。
さて、お話は池間先生からいろいろ伺いましたが、その娘さんのご様子はいかがなのでしょうか?
「フリーターやってるんです。いい年して嫁にも行かず、生活費を十分稼げないって、うちに居候してるんです。ただそれだけです。」
いわゆるパラサイト・シングルってやつですか、僕と同じで。それだけなら問題はないのですが。まあせっかくなんで、聴診器で調べさせて頂きます。息を大きく吸ってはいて下さい。…うーむ、心臓の音からうめき声みたいなのが聞こえる。
「…細枝、自立しろー。俺はお前と弟の太(ふとし)をー、他人に頼らずー自立しろとー、厳しくしつけてきたー。転んで立ち上がるのに、手を貸したことも、ないー。(注2)
あれれ?いいとこのお嬢様のボンボン育ちかと思ったらその逆みたいで。いやー、ひとりっ子で過保護気味に育てられた僕には、耳が痛い限りだな。……ただ何だか怪しいな。念のため、心電図検査もさせて頂きます。また息を大きく吸ったりはいたりして下さい。
「中学・高校からー、お前は関西のー、太は北海道のー、全寮制の私立に入れてー、自立させるためにー、盆と正月とじーちゃんの葬式以外はー、一切家に来させなかったー。」
……ふぅ、金持ちは教育にも人並みならぬお金を掛けるもんなんだなぁ。それにしても中学で全寮制に入って自立っていうのか?何か話が変だな。
「大学出るまで学費も家賃も払ってやったー。その後大阪で就職してー、奨学金も返してー、本当に自立してくれたー、俺は鼻が高かったぞー。ところが3年前ー、突然会社辞めて帰ってきたー。なぜ帰ってきたー?自立しろと教えただろー。なぜだー。この行かず後家がー。」
……はい、お疲れ様でした。なんか不気味な不整脈が見られます。お父様は相当自立にこだわってらっしゃったようですね。何か娘さんにあったんでしょうか?
「結婚詐欺にかかったと言ってました。おまけに買い物依存症になって借金抱えました。大阪のワンルームから追い立て食らって、泣きながら帰ってきて、それっきり自立の生活は途切れました。職を転々として、結婚話もなし。もっとも借金のほうは、うちが肉の外国産の先物に成功していた頃だったんで、すんなり返せましたが。」
結婚詐欺とはかわいそうに。多分娘さんは、15年も親御さんと離れてたんで、今になって温もりを必要としているんです。ましてやそういう災難に遭われてはね。今は当分そっとしてあげることです。
「とはいうけどね、弟の太と比べると心配になってくるんです。太は高校1年でいじめに遭って中退し帰ってきましたが、すぐにうちの店の取引先で雇ってもらえて、社員寮に入って、運送の仕事をしながら定時制高校に通いました。19歳で同級生と出来ちゃった結婚して、今は子供が2人います。辞めて帰ってきたときは一時どうなるかと思いましたが、すぐに自立して一安心です。それにひきかえ細枝ときたら…。」
コレコレコレ、お二人を比較してどうするんですか?置かれた状況が全然違うのに。
「細枝ときたら、うちにいる状態が続いてもう3年になって、ついに三十路です。まったく、せっかく15年も自立させていたのに、親の努力を無にするつもりなのかってんだ!田園調布の我が家は7LDKですが、これは娘をパラサイトさせるために建てたんじゃないんです!それをよりによって女房が甘やかすんです、寝たきりのばーちゃんのシモの世話をしてくれるから助かるって。大体ですね、パラサイト・シングルってのは○△×$%”☆*<@¥Σ…」

ふぅ、こりゃそーとーな重症だわ。

須根加治郎さんの診断結果
自立神経失調症 自立ということに対して誤った意識を持ち、変なこだわり方をする。(自律神経失調症ではない!)

飲み薬としてマイセルフィンとインディペンデクトを2週間分お出ししておきますので、朝昼晩食後30分以内に1錠ずつお飲み下さい。薬がなくなったらまたいらして下さい。あともう一つ、近いうちに娘さんにもいらして頂きましょう。

我が子をパラサイト・シングルにしないようにと中学の時から別居するよう仕向けるという教育方針、それ自体はよその家のことだから筆者がどうこう言うことではないが、この人は明らかに自立という意味を誤解している。


そもそも、パラサイト・シングルとは何か?この言葉の生みの親である東京学芸大学教育学部の山田昌弘助教授は、自著「パラサイト・シングルの時代」(ちくま新書)の中で次のように定義している。

パラサイト・シングル 成人しても親元に残り生計を頼って生活する独身者

パラサイト(parasite)とは「寄生虫(注3)の意味である。決して良いイメージはしない。確かに筆者も独身で親元に暮らしているけど、生活費は毎月きちんと入れているし、生計を親に頼っているという実感もない。いくら何でもその言い方はないだろ?と言いたくなる。とりあえずここでは、独身で親と同居していること、と定義することにしよう。
まずは、なぜ親と同居する独身者がそこまで増えるのか?そしてなぜそこまでパラサイト・シングル叩きがされるのか?その背景を筆者は次のように考えてみた。

(1) 集団就職世代と比べて大幅に高学歴化・晩婚化・少子化した

今時のパラサイト・シングルの親たちは、戦後の高度成長期に一斉に親元を離れて大都市に繰り出し就職していったいわゆる「集団就職」をした世代であり、学歴も中卒・高卒が珍しくない。実家の生活水準も低く、極めて若くして貧しく苦労の多い生活を強いられた(注4)。その中で結婚し、子供を産み、会社での出世・昇給を夢見ながら懸命に働き続け、豊かになっていった。
それゆえ、親心としては我が子にあまり苦労をさせたくない、高学歴でいい仕事に就かせたいと願い、その結果最終学歴、就職年齢が上がり、結婚も遅くなった。人口の大都市集中と交通機関の発達などにより実家から離れずに職場に行けることが多くなり、都心部にアパートを借りようとしても地価も高騰しているため、パラサイト・シングルはどんどん増えていった。
ところが古傷がうずき出したのか、いざ我が子が自分の結婚した年齢に達すると、その親たちの世代は手の平を返したように、まだ独立しないとか、まだ結婚しないとか、甘えているとか、自分の世代の感覚を無理に現代に当てはめて若者たちを批判するのだ。
これがどうも、パラサイト・シングル叩きの一番の原因ではないかと考えられる。ましてや少子化問題がクローズアップされては、独身者は否応なしにやり玉に挙げられる。実際、山田助教授は少子化問題や女性の社会進出などを専門としており、パラサイト・シングルをこれと結び付けているようだ。

(2) 大人と子供の区別の曖昧さ

元服などの通過儀礼があった昔とは違って、現代は大人と子供の区分が非常に曖昧になった。その結果、青年はモラトリアムといって、成人してもあまり大人としての責任を負わされなくなり、未成年の頃と同じ生活状態を保つ(=親との同居)ことにあまり抵抗を感じなくなったようである。このことも一理あるかもしれない。
その一方で、大人として自覚を持ちながらも、青年は成熟した大人と認められるための確固たる証拠に恵まれないことに苦悩する。若さゆえに何かと未成熟といわれ、ものを言っても説得力に欠ける。
自分が大人であることの確固たる証拠とは何か?まず誰かと結婚をしてしまえば、余程問題がない限りどんなに若くても殆ど誰もが「一人前」と認めるに違いない。しかし結婚には相手が必要であり、筆者のように相手のいない人間には絶対不可能である(^^;)。となれば、もう一つの手段はいかにも親に頼らず独立して生計を立てているように見えるような暮らし方である。となると、どうしても親元を離れるという結論にくる。
いってみれば、ここでは親と別居することがある意味自分の大人としての立場を守る盾になっているのである。しかし、親元を離れても働かず親に金をせびる人がいるし、結婚しても育児をほったらかして遊び歩く夫婦もごく少数いるのだから、結婚や親元を離れることがそんな盾として機能するはずがないと思うのだが。それよりも、そういう盾にしがみついて自分の人格を守ろうとする神経こそ、自分の人格に自信がないことの表れではないか、と勘繰りたくもなる。そういう発想は、自立神経失調症の症状の一つである。

(3) 長引く不況による就職難とフリーターの増加、パラサイト消費抑制説

この不況で深刻な就職難となり、若い世代でフリーターが増えている。フリーターは概して収入が低く不安定なため、一人暮らしをしようにも家賃を払うのが困難で、また家電など生活必需品を多く買い揃えることに対する抵抗感から、いきおい親と同居することになりやすい。当然、収入不足のため結婚生活になかなか踏み切れず、晩婚化は進む。だからある意味、パラサイト・シングルは不況の産物ともいえる(注5)
そこへきて山田助教授は、親元を離れれば生活必需品を買うはずだった人が親元に留まるために必要なくなり、個人消費の落ち込みにつながる、というパラサイト消費抑制説(注6)を唱えている。そのうえで、パラサイト・シングルを親と別居させることで個人消費が増え、景気が回復するといっている。
おいおいちょっと待ってよ、景気が悪くてみんなが財布のヒモを締め、生活必需品をわざわざ買う不経済を避けるための手段として独身者が親と同居してるんだから、しょうがないだろっちゅーの。それにパラサイト生活は環境に優しいのだ!(注7)21世紀の消費者はこの不況を通り抜けて年々賢くなっていくんだから、そういう小手先のやり方で景気を回復させようだなんて無理ではないのか?

パラサイト・シングルはある意味時代の産物であり、その増加を(独身で子供が生まれないという意味で)危惧する声が高まることはいたって自然である。しかし、世の中には農業など家業を継いだり、或は親が病気だったりして、どうしても親と同居せざるを得ない特別な事情の人もいることを忘れてはならない。
そういう事情がなくても、ただ闇雲に結婚しろとか親と別居しろというのは、人生の生き方とか家族のあり方とか何か大事なものを見失っているような気がしてならないのだが。筆者の周りでも、パラサイト・シングルが誰かと結婚すると大半はどちらの親元からも離れていくが(結婚して姓の変わらないほうも)、そんな彼らが「結婚したら親元を離れなければならない」という根も葉もない暗黙の不文律に取り付かれているように見えなくもない。


次の方どうぞ。あ、須根細枝さんですか。はじめまして。昨日お父様がお見えになりました。うわー、すんげーフェロモンぷんぷんのべっぴんさんやなー。何だか魔性を感じるというか。(*^o^*)……この女性が例の田園調布の大邸宅に住む高級肉商社社長のご令嬢なのである。
お父様から一通りお話はお聞きしましたが、まずは視力検査をいたしましょう。右目を検査しますので、ランプのついた部分の文字を読んで下さい。

「ダ、レ、デ、モ、イ、イ、ケ、ツ、コ、ン、シ、タ、イ、ア、イ、ハ、イ、ラ、ナ、イ」
テンテンやンなんかどこにもついてないんだけどな。つぎ左目お願いします。
「エ、イ、キ、ユ、ウ、シ、ユ、ウ、シ、ヨ、ク、オ、ン、ナ、ノ、シ、ア、ワ、セ」
……なんか結婚に異常な執着があるようですね。
「家族と一緒に過ごせない毎日が寂しくて、就職した頃から私はずっと結婚のことばかり考えてました。でも仕事が忙しくて休まる暇もなくて、いつの間にか7歳も年下の弟に先越されていたんです。それで、あまりに悔しかったんで、何が何でも相手見つけてやるって、なけなしのお金をつぎ込んで結婚情報ナントカに入会したり、出会い系サイトに登録したり…(略)…それで仕方なく実家に帰ってきました。」
お父様からお聞きしましたが、おうおう、かわいそうに。守ってあげたいナァ。
「実家で気が付いたら、同じ小学校だった近所の友達が、みんな結婚してるんです。私が好きだった男の子も、別の女の子と結婚して、子供が二人いました。太も23歳でもう二人目がいます。独身は私だけ……。だから私、今すぐにでも結婚したいんです。父も結婚しろとうるさくて、近所でも何だか立場がないし、ついには太の上の子にまで、細枝おばちゃんまだ結婚しないの?って言われるし。相手は誰でも構いません。もう愛なんかいりません。ただ永久就職先さえ見つけてしまえば、私は片付くんです。女の幸せを得るための苦しみは全て終わるんです!」

過去があるのはよーく分かったけど、ねぇ細枝さん、結婚って、周りがしてるから自分もするとか、独身だと世間体が悪いとかいう理由でするもんじゃないでしょうが(注8)。あなたは結婚というものを相当誤解してますよ。そんな自分中心な動機で愛のない結婚を申し込まれても、男のほうは困りますよ。結婚願望が空回りするだけですよ。……でもこんな美貌の人に結婚申し込まれたら、理由はどうであれOKしたくなっちゃうなー。(*^o^*;)しかも相手は実業家というし、逆タマという路線も考えられる……おっと、僕は仕事中だ、私情をはさんじゃいかんのだ。

須根細枝さんの診断結果
結婚気だらけエゴ誤解だらけ症候群 結婚を自分中心にとらえ、自分が結婚している状態を得ることばかりに固執し、愛して大切にすべき相手のことを二の次三の次に考える。

飲み薬としてヒトリナールとフィアンサールを2週間分処方しておきましょう。毎日夕食後1錠ずつ、30分以内にお飲み下さい。薬がなくなったらまたいらして下さい。

ふぅ、うっとりする美貌だけど、患者としてはやっかいだった。あの症状は、あんな勘違いのひどい父親に育てられたからなのかも。だとすると、彼女のことを責めるのも何だか申し訳ない気がするのだ。


ここで、山田助教授だけでなく、パラサイト・シングルを否定視する人々が口々に言う意見について、筆者なりの反論を述べておきたい。

(1) 自立、独立、一人暮らし

さきの須根加治郎さんではないが、どうも世間で自立という言葉は一人暮らしという意味に曲解されているようである。多分そうやって使われる自立とは独立という意味になるのだろうが、それでも筆者には相当ニュアンスに隔たりがあるように思える。異論を唱える人もあろうが、筆者は次のように言葉の意味をとらえている。

このとらえ方だと、一人暮らしを独立と呼ぶのはまだ許せるとしても、自立という言葉に結びつけるのはいくら何でも無理があり過ぎるということになる。この3つの言葉は、もうはなからベクトルが全然違う方向に向いているではないか。
たとえ親なり誰かと同居していたとしても、その同居する家族を甘える対象とみるのではなく、自立した大人の同居人同士として付き合っていれば、その人は立派に自立しているといえるのではないか、と筆者は考えている。逆に親と同居しない夫婦であっても、夫は妻に家事や自分の身の回り一切を任せっきり、妻は夫の経済力や地位を当てにする、という意識ならば、単に依存する相手が親でないというだけの話、どちらも自立しているとはいえないだろう(注9)

自立とは、要は本人の意識次第である。

それに解釈によっては、自立とは実に傲慢な言葉である。どんなに自分を自立した人間だと豪語しても、誰からも助けられず誰にも依存せずと言ってしまえば嘘になる。会社員は収入源で会社に依存し、会社や自営業者は経営で顧客や出資者に依存し、市民は安全面で警察や消防に依存し、外務省の一部の役人は私腹を肥やすのに国民の税金に依存している(^^;)。誰もが誰かに依存しながら生きているこの世の中で、自立とは何かと定義すること、また自立していることを誇ることに、何の意味があるのか?とも筆者は考えてしまうのだ。……うーむ、禅問答になってきた。

(2) 一人暮らしで知る人の有難さ、若いときの苦労

筆者が座右の銘としている歌の一つとして、アメリカのロック歌手Eric Carmenの「All By Myself」(注10)がある。その歌詞は、故郷から独立して社会の荒波にもまれていく青年の苦悩を切なく語っている。自分の親しくしていた人と離れ、困難に出くわして初めて、その親しくしていた人の有難さを知る、という人間の愚かさをあぶり出してもいる。
この歌ではないが、一人暮らしの経験者は口々に「一人暮らしをして初めて人の有難さ、特に親の有難さが分かった。」という。一人暮らしをすると、自分の身の回りのことは何でも自分でやらなければならないし、家賃などお金のやり繰りも全部自分で考えなければならないし、その家の様々な責任が自分にのしかかる、といろいろ特有の苦労が続くため、パラサイトの頃にその苦労を一心に引き受けてくれた親の恩を感じる、というのだ。更にはこれに「若いときの苦労は買ってでもしろ」と結びつけて一人暮らしを強引にすすめようとする人もいる(注11)
なるほどねー。確かにこれは表向きには納得いく発言ではある。しかし筆者はこういう発言が行なわれる背景に対して真っ向から異議を唱える。まず一つ、筆者の持論をいうと、

人の恩というものは、一人暮らしするしないにかかわらず分かっていて当然である。

その人が自分の目の前からいなくなってから有難さを感じるのではあまりに遅すぎる。また、この表現では「パラサイト・シングルは恩知らず」と読み取られかねず、パラサイト・シングルをさげすむことになる。
それからもう一つ、有難さとか苦労とかいう一人暮らしの経験者の発言は親への依存心の裏返しとも読み取れる。親にべったり依存するという神経を持って同居し、それを引きずったまま親元を離れてきたから、別居したときに欠乏や苦労(防犯の問題や病気になったときの看病など一人暮らし特有の苦労は除く)を感じて、そういうことを言うのではないか。多分そういう発言をする人は、一人暮らしになって自分はこうも成長したんだと誇らしげなんだろうが、この発言はかえって自分の未熟ぶりをさらけ出している。何という皮肉。
そもそも、人でも何でも「有難さを感じる」とは定義があまりに曖昧である。こうすれば恩を感じたことになるとか、ああすれば恩に報いたことになるとか、基準など何もないのだから、目の前に見える事実だけを取り上げて人のことを恩を知る人とか恩知らずとか議論すること自体が無意味ではないか。

(3) パラサイト晩婚論

日本は現在深刻な少子化問題に直面していて、2006年をピークに人口が減少するといわれている。その原因として、国民の晩婚・非婚化がやり玉に挙げられている。で、平均初婚年齢や未婚率の上昇に伴って、親と同居する未婚者の人口もじりじり増えているという。データを見ると、確かに未婚率と親と同居する未婚者の数とは強い相関がある。
そこへもってきて、この両者の間に無理やり因果関係をこじつけ、根も葉もなく、次のようなパラサイト晩婚論をのたまう人が世間にはびこっている。

パラサイト晩婚論:「親との同居が原因で結婚できない」
  1. 親と同居していると、現状で生活に不自由せず、また結婚による生活水準の低下に抵抗を感じるため、なかなか結婚に踏み切れない。一方、一人暮らししていると不便を解消しようと結婚願望が働く。
  2. 親と同居していると、相手が親との関係(嫁・姑など)を意識することになり、或は親離れが出来ていない(マザコンなど)と思われ、相手が抵抗感を持ってしまう。
  3. 一人暮らしをしていると、どんどん外出して異性との交流が盛んになるため相手にめぐり合いやすい。更に好きな人と同棲生活ができる。そのため、結婚に発展しやすい。

確かにこれは一部合っている(注12)。しかし筆者は、あえて次のように反論しておきたい。

いっちゃんの逆パラサイト晩婚論
  1. 親と同居していると、結婚前に互いの親・兄弟姉妹と接触する機会が多くなり、よく知り合うため、結婚による新しい家族関係に不安を感じにくくなり、結婚へとスムーズに移行しやすいことがある。
  2. 独身で親と同居したまま年齢を重ねると、親から何かにつけて「結婚はまだか」とハッパをかけられやすい。一方、一人暮らしが長くなるとそういう干渉がなく、現状に安穏として、結婚への意識が薄れやすい。(注13)
  3. 親と同居していると、結婚生活に必要な知識・技能・考え方(家事・保険の扱い・夫婦のあり方など)を親から学んだり、結婚生活資金を蓄えたりと、結婚への十分な準備ができる。

二人だけの一時的な感情でする恋愛とは違って、結婚とは時にはお互いの家族まで巻き込んで、愛に包まれて一生にわたる新たな家族関係をつくることであるから、当然親と同居する可能性は大いにある。そう考えると、結婚の直前に親と同居・別居ということを云々するのは、その家に特別な事情でもない限り殆ど無意味と思えるし、むしろ相手の親との関わりを嫌がる人は結婚する資格がないのではないか。また、一人暮らしの不便を解消する、というのはあまりに無責任で結婚の動機とするには無理があり、そのままズルズルと結婚生活に入れば単にもたれ合うだけに過ぎないのではないか。……反論すればきりがないが、少なくとも親と同居するかしないかと婚期とを結びつけるのはあまりに無理だと思う。
更にもう一つ、筆者の持論を付け加えると、

結婚を個人の問題とするのはナンセンス。

結婚は相手がいてこそするものであり、ある人が既婚か未婚かということとその個人的に持っているもの(年齢・収入・性格など)との相関は本来ないはずである。そういう意味では、既婚・未婚で個人を評価することはあまりにおかしく(注14)、パラサイト晩婚論は絶対にナンセンスだといえる。それを相手の存在を無視して、やれ「○○歳になったから結婚しなければならない」とか「性格が××だから嫁のもらい手がいない」などと勝手に結婚を個人の問題とばかり考えていると、それこそ須根細枝さんのように「結婚気だらけエゴ誤解だらけ症候群」になってしまう。それで本当にいいのか?

パラサイト・シングルの真実:独身で同居する相手がほかにいないから唯一の家族である親と同居している。

結局のところ、これだけのことでしかないのではないか?実際アンケートによると、親と同居する独身者の大半は結婚願望があるという。そう考えると、パラサイト晩婚論は現状を無視した机上の空論としか思えない。


さて、あれから二週間経ったか。今日はあの須根さん親子の薬が切れて、二人ともやってくる日だ。(ピンポーン!)どうもこんにちは。あれからいかがでしょうか?前よりも穏やかなお顔つきのようで。
加治郎「まあ、薬が効いたんでしょうか、だいぶイライラがなくなりました。日本の40歳の男性の1割が独身なんて聞くと、うちの娘もまだ慌てる年じゃないなって。…ところで市原先生は、どうしてこちらでご両親と同居してらっしゃるんですか?」
ははは、僕の話の核心に触れてきましたな。よくぞ聞いて下さいました。こういう理由です。

僕はこのパラサイト・パラダイスで本当に有意義に過ごしています。パラサイト・シングルを否定視する気は全くありません。大体、そういう偏見くさい世間の風に流されて自分の生き方を見失うのはあまりに愚かじゃないですか。むしろ、このパラサイト・パラダイスを人生の選択肢として持てることを、本当に幸せだと思わなきゃ。
加治郎「そういうプラスの考え方もあったか。よく分かりました。教えて頂き本当に有難うございます。……ところで、そうはいうけど、先生だって結婚願望はおありでしょう?」
ええ、まあ、ね、いずれはいい相手が見つかれば、と思っています。一人暮らしする気はないけど、もう30近いし、いつまでもパラサイト・シングルじゃちょっと甲斐性ない気がして……。実は僕も、ちょっとした結婚気だらけエゴ誤解だらけ症候群なんです。(^^;)
加治郎「でしょ?それなら、うちの細枝なんかいかがですか?結婚を考えて頂けませんか?ちょっとキズモノではあるけれど、親に甘えられない長い女子寮生活で、教養も礼儀作法も厳しく仕込まれてきました。それに本当に先生と同じく、家族思いです。先生がお気に召されれば幸いです。」
細枝「先生、ホームページを何度も拝見して、お人柄がよく分かりました。趣味も近くて話がよく合いそうな気がして、あと何よりも先生の誠実さや包容力というのが伝わってきました。一生この人と付き合いたい、と思いました。」
え?え?え?結婚?……いやぁ〜、照れるなぁ〜。(*^o^*)このブオトコがまさかこんなべっぴんさんからプロポーズされるなんて、いいのかなー。おまけに逆タマかもしんないし。デヘデヘデヘ。……まあ、ちょっと、考えさせて下さい。

(ピンポーン)ちょっと失礼。はーい、ただいま。おやおや、「雲印食品関東ミートセンター」と書かれた大きなトレーラーから作業服姿の若い男性が一人。
「はじめまして、須根太と申します。父と姉がお邪魔してますでしょうか?」
ああ、須根細枝さんの弟さんですか。はじめまして。ええ、ちょうどいらしてるところなんですよ。さあ、どうぞ。へぇー、雲印さんですか、それはなかなかたいそうなところにお勤めで。
「えっと、あなたが市原先生ですか?姉が婚約したいっていう。一度お目にかかりたいと思っておりました。」
ハァ、さっき申し込まれました。なんだかあまりにお綺麗で、僕にはもったいないぐらいで。……で、お父様にご用ですか?そのトレーラーの後ろでお話しになるんですね?

加治郎「おい、また仕事か?またボロ儲けか?最近お前のおかげで、埼玉の外れにあるたった20坪の我らが須根精肉店が1日数十万も稼ぐなんて夢みたいな日が続いて、笑いが止まんねえよ。」
はぁ?先々週言ってた名刺の話は嘘だったの?
「それがよー、父さんよー、今回はでけえぞ。またセンター長から頼まれたんだ。全部オージービーフなんだけど、今回は松阪で頼む。手間賃は100万、いや、明日昼12時までに全部やってくれれば200万だ。」
加治郎「え?200万?喜んでやらせてもらうぞ!……いやー、ラベルを張り替えて和牛に見せかけ、この狂牛病騒ぎにつけ込んで政府に買い取らせるなんて、俺達も罪なことしてるよなぁ。」
ン?ン?ン?なんかすんごい話聞いちゃったなぁー、あの雲印さんがこんなことやってるなんて。
「仕事を優先的に回してやってんだから、俺に感謝しろよ。だってさー、母さんの話じゃさー、連日のように借金取りが来るんだろ?」
加治郎「バカ、声がでかい!せっかくの細枝の縁談がフイになったらどうすんだ!借金返してくれるあての人を逃がしちまうじゃないか!」

ちょっとちょっと、もしもし、どういうことですか?肉の商社とか田園調布とかっていう話は嘘だったんですか?細枝さんの借金はもう全部返したって話じゃなかったんですか?お話は部屋で伺いましょう。……僕も細枝さんとの結婚を考えるにあたって、将来家族となる皆さんの事情を知る権利があります。さあ、正直に話して頂きましょう。
加治郎「いや、あの、そのー…、先生、申し訳ありません。本当は私ら、先生のおっしゃる通りで、埼玉の小さな肉屋です。借金もあります。この狂牛病騒ぎで肉屋が赤字で、借金してやっとこさしのいでるんですよ。」
あれれ?また嘘おっしゃってますね。さっき聞こえたんですが、牛肉の偽装工作で荒稼ぎしまくってるんでしょ?
加治郎「でも、うちは借金返すために必死なんで。先週も頑張ったつもりなんだけど、競輪で10万すって、麻雀では大三元と国士に振り込んで20万負け、全くついてねえ。」
「またギャンブルかよ。おい姉ちゃん、なんで父さん見張ってくれなかったんだよ!」
細枝「だって父さんが自立しろってうるさいから、生活費入れるために忙しくバイトしてたのよ。そしたらあたしの知らないとこで。」
加治郎「ギャンブルで一気に数十万稼いで借金を返せるかと思うと、やめらんねえんだよな。……おぉぃ、しまった!俺ら市原先生にうちの事情をしゃべっちまったじゃないか!……あのぉー先生、今の話は聞かなかったことにして下さい、お願いしますぅ〜。m(__)m」
実をいうと筆者は、直前に3人にホンネゴン(包み隠さず本音をしゃべらせる薬)入りのお茶を差し出したのである。(^^;)

よ〜く分かりました。田園調布に住む商社の社長さんとかと嘘をついて僕を騙し、細枝さんを僕に嫁がせて、僕を借金返済の金づるにしようという魂胆だったんですね。細枝さんとの結婚のお申し出、お断りさせて頂きます。僕は詐欺師と結婚するつもりはありません。
加治郎「借金は私が全部返します。ギャンブルはもうやめます。早く返して、先生にご迷惑お掛けしないようにします。だから、そこをなんとか、細枝を…」
借金をどうしようと、どうせ僕には関係ない話です。お引き取り下さい。二度と来ないで下さい。
細枝「ああん、先生、私の運命の人、私はいつまでもあなたについていきます。あなたがいないと、私死んじゃう。どうか私を、捨てないで、お願い〜!」
うるさい!しつこいぞ!帰れ!帰れといったら帰れ!(`o'#)……あー、いいんですか?帰らないと、雲印さんと須根精肉店さんがグルになって牛肉の偽装工作をしていると、ネット上でばらしますよ、ウッシッシ。

3人は尻尾を巻いて逃げた。……ふぅ、あともう少しであのバカ親父の借金地獄に巻き込まれるところだった。クワバラ、クワバラ。この経験から、自分がパラサイト・シングルであることにコンプレックスを抱いてそれに流され、自分の人生の道標を見失っては絶対にいけないのだ、と筆者は身にしみて分かった。
それにしても、何が「自立しろー」だ。あのバカ親父は妻と娘の目を盗んでギャンブルに走り、息子に仕事をせびり、娘婿を金づるだと当てにする。息子は雲印のパラサイトとして父と共謀して詐欺商売の片棒を担ぎ、雲印は政府にパラサイトして偽装牛肉を買わせる。娘は父と共謀して筆者を騙し、筆者にパラサイトして結婚状態を得ようとした。なんだなんだ、あの家の3人はみんな自立してないじゃないか。しかも一番悪いのは「自立しろー」と言った張本人、あのバカ親父じゃないか。

後々の話によると、須根さん親子の牛肉偽装工作はいとも簡単に発覚し、雲印食品とともに須根精肉店は倒産、関東ミートセンター長と加治郎さんと太さんは詐欺などの罪で逮捕されて執行猶予つき有罪判決、細枝さんは夜逃げしてしまったという。この罰当たりめが!

教訓:世間の風に流されず、己の道標を見失わず生きるべし。

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